モカジャバをジャバジャバ

世間の出来事のうちのごく一部について、周回遅れで書くブログです。基本的にはゲームのブログではあります。

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今年読んで面白かった本、2冊。感想。

2013年があとすこしで終わる。
そんな簡単な事実すら受け入れられない、ちっぽけな人間です。

思えばあんまりおもしろい事も無かった気がするし、振り返ってみれば春やら夏やらに抱いた抱負なんかは雲散霧消してしまってそもそも何を抱負としていたのかさっぱり思い出せません。今年も非生産的だったなあとか、虚無感ばかりが募ります。

そんな訳で、今年一年のうちに読んだ本のなかで面白かったものを振り返ってみて、せめて楽しい思い出をこしらえてみようと思います。
そもそも今年ほとんど本、読んでないんですけど。

中途半端な密室  著:東川 篤哉

中途半端な密室 (光文社文庫)

中途半端な密室 (光文社文庫)

タイトルに惹かれて買ってみたら、面白かったんです。
久しぶりに、ミステリを読んで「面白い!」と思いました。
本当に久しぶりです。
どれほど久しぶりかと言いますと、ミステリを読んで最後に「面白い!」とか思ったのがまあ大体、京極夏彦の「絡新婦の理」を読んだ時だったと思いますので、それから10年くらい経ってますね。

とはいえ本作は「絡新婦の理」ほどの大作ではありません。
何しろ短篇集です。しかも結構薄い。重量感でいえば比ぶべくもありません。本の質量と内容が比例する訳ではありませんが、本作を読んだあとで「面白い!」と思いはしても感動は特にありません。
でも、面白かったんです。

面白さの理由は、表題作である「中途半端な密室」のスマートさにあるんじゃないかと思っています。
まず、キャラがいい感じなんです。
薄い本(同人誌のことではありません)の内容量を更に細かく分けた短編ですから、濃密な人物描写とか、筆致を尽くした心理描写なんかはありません。それでも、登場人物が良い。キャラが立っている。
とはいえミステリ史に残るような名探偵が登場する訳ではありません。むしろ「ちょっとどこかでこういうキャラ見た気がするぞ」と思いすらするのですが、その疑問が回答にたどり着く前にすんなりと本作の登場人物がイメージを結ぶ。そんな感じでした。
もしかすると「どこかでこういうキャラ見た気がする」という読者の記憶を足がかりにして作中の登場人物をイメージさせるという高等テクニックなのかも知れません。(多分そんなことない)

そして、伏線回収が見事です。
とはいえエポックメイキングなトリックが使われているとかそういう訳ではなく、とにかくスマートに伏線回収が行われるだけです。そのスマートさといえばamazonで商品を探して発注、カード決済、翌日受け取り、くらいのテンポ感です。
必要最低限の人物紹介と、最小限の事件情報、そこからすぐ推理、即解決、最後にちょっと予想外の伏線回収。これらが完璧なバランスで配置されており、これらを構成する文章のうちに無駄なものが一行も無い。だから、事件の解決がより鮮やかに見える。

この、” 無駄な文章がひとつも無い ”というのが本作の魅力、だと思います。

表題作以外では、競馬の話が好きでした。
こちらは” 一見無駄に見える文章が実はまあ大体必要な文章だった ”という構造で、これまたスマート。
あと、妙に笑えたんです。競馬の話。

皆勤の徒  著:酉島 伝法

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

皆勤の徒 (創元日本SF叢書)

今年、この酉島伝法という作家を知る機会を得たことは私にとっての最大の喜びかも知れません。
おおいいぞ、なんだか2013年が良い一年だったような気になってきた。

酉島伝法は未来人。間違い無い。
彼があやつる言語は、現代の我々のものとは完全に異なって居ますから。

酉島伝法という人は考証に考証を重ねた結果いつの間にか時間と空間を飛び越え、「未来」に辿り着いちゃったようです。それで、その土地その時代の言葉で本を書きました。その本が時空の捻れを通り抜けて現代に届き、編集部の目にとまった…というのが ”皆勤の徒” 発売までのあらましに違いありません。
SF好きの端くれとして、未来から直送の書籍だなんてもう垂涎モノです。
ただし現代語に翻訳される事のないまま発売されたので、この本は大層難しい一冊となっています。
もしかしたら出版社も翻訳を諦めたのかも知れません。

もちろん、喩えですけどね。
ですが、例えばあと200年、いや100年経って、大塵禍を乗り越えた私がブログを書いたら、本作みたいになるはずです。この本はそういう領域に到達しています。
そう気付いた瞬間一気に脳汁が噴き出し、思わず机に額を打ち付けて謎の快哉を叫びそうになりました。
この本は、そこの部分が凄いんです。
グロい、ヤバい、ワイリヤバイ、みたいなところ以外ももっと評価されればいいのに。
ともかく、異言語の効能みたいなものをここまで追求し、遺憾なく発揮した本を、私は他に知りません。

既に以前一度感想を書きなぐっているのでこれ以上アレコレ言うことはしませんが、凄く良かったです。
以前の感想はこちらをどうぞ:
書き出しはどの一日からでもかまわない。 (皆勤の徒 感想) - モカジャバをジャバジャバ


私は個人的には、ストーリーのエンタメ性とかキャラクターの面白さみたいなところばかりを評価しがちなのですが、そういう観点から見ると ”皆勤の徒” はイマイチです。というか、ストーリーの面白さにたどり着くまでのハードルが高すぎる。
つまり私は、SFは結構好きなんですが、いわゆるハードSFを読むのは苦手です。
クールな起承転結とか意外な展開とか格好良い決め台詞とか思わず二次創作に走りたくなるような素敵なキャラクターとか、そういうわかりやすいエンターテイメントが好きです。

だから、SFというジャンルにおいてしばしば求められる「発想の斬新さ」みたいなものをあまり評価しないのですが(SF読むのやめればいいのに)、それでも、本作のような素晴らしい発想が日本SF界から生まれた事を何だか嬉しく思います。


そういえば、伊藤計劃の「ハーモニー」に、WatchMeの機能の一部として登場したナノマシン
それからこの「皆勤の徒」に登場した塵機、つまりナノマシン
その他あれこれナノマシン。技術の単位を極限まで小さくすることで万能性を獲得したナノマシンナノマシンナイアシンではない。
何だか最近色々な作品で「ナノマシン」を見かける気がするんですよ。
それで、不安になりました。
SFというジャンルの発想する技術の限界がこのあたりにあって、現在の現実世界から更に未来技術を空想しようとすると最早 「自由自在に物体を作り出せる」 という袋小路にたどり着くようになってしまったのではないか。技術発展の余地は最早無いのか、これが進化の袋小路(ちょっと意味が違う)とか、そんな事を考えてしまったんですね。

ところが実際は今年、現実に対する予想外かつ新しいアプローチが発見されたりもしていましたね。
それについてはまた後日気が向いたら。

結論:2013年はいい一年だった

きっとそうだ。
そうでなくてはやっていられない。